グリーンリカバリーとはなにか?具体例から未来への影響まで
「グリーンリカバリー」という言葉を聞いたことがありますか?
2020年の新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック後、多くの国々が経済の再生を図る過程で「グリーンリカバリー」の原則を取り入れることを検討しました。
これは、新たな経済の機会を生み出し、持続可能性を高め、地球の気候と生物多様性に対する負荷を減らすことを目指しています。
この記事では、それらの取り組みの成功と失敗の事例、そして将来性や課題について解説します。
グリーンリカバリーを知る
グリーンリカバリーの定義、WWFが推進している理由、目指す持続可能な社会像について解説します。
グリーンリカバリーとは
グリーンリカバリーとは、経済が大きな打撃を受けた後(例えば金融危機やパンデミックなど)に、その復興を通じて環境に配慮した持続可能な社会を構築しようという考え方です。
その主な目標は、社会経済的な回復を達成すると同時に環境負荷を減らし、気候変動を緩和することです。
これは、投資や政策の優先順位を再生可能エネルギー、エネルギー効率、持続可能な交通、環境に優しい農業などの緑色の産業やプロジェクトにシフトすることを通じて達成されます。
世界自然保護基金(WWF)は、地球上の生物多様性を保護し、人間活動が自然の再生能力を超えない方法で行われることを推進している国際的な非政府組織です。
そのため、グリーンリカバリーという概念は、そのミッションと一致しています。
グリーンリカバリーが目指す社会
再生可能エネルギーに基づく社会
石炭や石油などの化石燃料に頼るのではなく、太陽エネルギーや風力エネルギー、水力、地熱などの再生可能エネルギーが主流となります。
これにより、エネルギー生産によるCO2の排出が大幅に減少し、気候変動の緩和に寄与します。
緑の雇用が増える社会
再生可能エネルギー、エネルギー効率、環境保全などの分野で新たな雇用機会が創出されます。これにより、経済は持続可能な産業によって支えられ、同時に人々の生活も向上します。
循環型経済の実現
製品のライフサイクル全体において、製品の設計、生産、消費、そしてリサイクルや廃棄といった段階で環境に配慮した選択がされます。
これにより、資源の消費が抑えられ、廃棄物が削減されます。
グリーンリカバリーの特徴
グリーンリカバリーが対象とする領域、その取り組みがもたらす利点について解説します。
グリーンリカバリーが対象とする領域
運輸
運輸は大量のCO2排出の原因です。
よって、電気自動車や水素エネルギーを利用した運輸手段への移行、公共交通の利便性と利用の増加などが求められます。
農業と食料生産
農業は気候変動に大きく貢献しています。
よって、持続可能な農業方法(例えば有機農業や再生可能な農業)の普及と、地域の食料生産と消費の促進が重要です。
自然保護
森林、湿地、海洋などの生物多様性豊かなエコシステムの保全と回復は、気候変動を緩和し、生物多様性を保護するのに重要です。
これらの領域は全て相互に関連しており、一部分だけを改善するのではなく、全体的な視点で改善することがグリーンリカバリーの目指すところです。
グリーンリカバリーのメリット
生物多様性の保全
自然環境の保護と修復により、生物多様性の損失を防ぎ、エコシステムの健康を保つことができます。
社会のレジリエンス向上
グリーンリカバリーは、気候変動の影響に対する社会のレジリエンス(回復力)を向上させます。これは、極端な気候イベント(洪水、干ばつ、熱波など)からの回復、食糧と水の安全保障、エネルギーのセキュリティ強化などを通じて実現します。
公衆衛生の改善
空気や水の質の改善、健康な食事の促進、活動的な生活スタイルの推進(例えば、自転車や歩行による移動)などにより、公衆衛生が向上します。
グリーンリカバリーの具体的な手法
グリーンリカバリーの具体的な手法と、それを適用する際のステップバイステップの手順について解説します。
グリーンリカバリーを実現する方法
グリーンリカバリーを実現する方法として、持続可能な農業への移行があります。
その手法は、例えば、以下の通りです。
オーガニック農業の推進
農薬や化学肥料の使用を減らし、生物多様性の維持と土壌の健康を促進するオーガニック農業を実施します。
これには、農家に対するオーガニック農法の教育と訓練、認証制度の導入、オーガニック製品の市場開拓などが含まれます。
自然循環型農業の実践
廃棄物をリサイクルし、資源の循環を促進する自然循環型農業を実践します。
例えば、家畜の排せつ物を肥料として利用したり、作物の残りカスを堆肥にしたりするなどです。
地域での直売
生産者と消費者が直接取引することで、新鮮な農産物を効率的に提供し、食品の地産地消を促進します。
これには、ファーマーズマーケットの開設やCSA(コミュニティ・サポーテッド・アグリカルチャー)の推進などが含まれます。
グリーンリカバリーの取り組み手順
オーガニック農業の推進を例に、その取り組み手順を解説します。
評価と計画立案
地域の現状の農業状況を評価します。
これは、化学肥料や農薬の使用状況、土壌の健康、生物多様性、農産物の市場価格などの調査です。その上で、オーガニック農業をどの程度、どのように推進するかの目標と計画を立案します。
政策の制定と実施
オーガニック農法の教育と訓練プログラムを立ち上げ、農薬や化学肥料の使用を減らし、自然資源を保護する政策を制定します。
また、オーガニック農産物の認証制度を設け、消費者に安全で健康的な選択肢を提供します。
資金調達
オーガニック農業の推進に必要な資金を調達します。
これには、教育と訓練の費用、新しい農業技術の導入、マーケティングなどが含まれます。政府の予算や補助金、非営利団体からの支援、投資家からの資金など、様々な方法で調達可能です。
パートナーシップの構築
地域の農家、消費者、ビジネス、教育機関、政府など、関係者全体が一緒になって取り組むことが重要です。これらの関係者とのパートナーシップを構築し、協力関係を築きます。
実行とモニタリング
政策を実行し、その進行状況と結果を定期的にモニタリングします。
これには、オーガニック農法の採用率、農薬や化学肥料の使用の減少、オーガニック農産物の販売状況などを調査します。
評価と改善
実施した政策の結果を評価し、その効果を分析します。
これに基づき、今後の改善点を見つけ出し、持続的なオーガニック農業の推進を実現します。
グリーンリカバリーの未来
世界のさまざまな国で取り組まれているグリーンリカバリーの成功と失敗事例を紹介し、その将来性と今後の課題について解説します。
グリーンリカバリーの事例
デンマークの首都コペンハーゲンは、成功事例のひとつです。
その具体的な取り組みは、以下の通りです。
自転車都市の推進
コペンハーゲンは世界でも有数の「自転車都市」であり、市民の多くが日常の移動手段として自転車を利用しています。
自転車専用の道路網が市全体に広がり、交通信号も自転車乗りを優先するように設定されています。これらの効果は、大気汚染の減少や健康促進です。
再生可能エネルギーの導入
都市全体で再生可能エネルギーの使用を積極的に推進しています。
風力発電の導入に力を入れ、2050年までにカーボンニュートラルを達成する目標を立て取り組んでいます。
失敗事例としては、バイオ燃料の推進による問題があります。
ブラジルやインドネシアでは、バイオ燃料の生産を促進する政策が進められました。
しかし、これが熱帯雨林の大規模な伐採や食品価格の上昇を引き起こし、環境や社会に大きな問題をもたらしました。
これは、バイオ燃料が必ずしも環境に優しいとは限らないという事実を示しています。
グリーンリカバリーの未来
グリーンリカバリーは、経済復興と環境持続性の両立を目指す非常に重要な概念であり、その将来性は大きいと言えます。再生可能エネルギーやエネルギー効率化、持続可能な交通システムなど、新しい産業の発展は新たな雇用機会を生み出します。
例えば、太陽光パネルや風力タービンの設置、維持管理には技術者が必要となります。
一方で、課題例は資金調達の難しさです。
大規模な再生可能エネルギープロジェクトやエネルギー効率化プロジェクトなどは、初期投資が大きくなります。公的資金だけでは足りず、企業や個人事業主といった、プライベートセクターからの投資を引き出す仕組みが求められます。