「持続可能性」は、SDGsの活動や環境問題の話題でよく耳にすることも多い言葉でしょう。しかし、説明するとなるとよく分からないという人も多いのではないでしょうか。持続可能性は何を意味するのかという点、実現するための方法や現在の取り組みを解説します。
持続可能性を理解する
持続可能性の定義とは何でしょうか。持続可能性の5つの基本概念と4つの基軸を解説します。
持続可能性とは何か
持続可能性は、英語の「サステナビリティ」を日本語に訳したもので、「続けていくことができる」ということを意味します。すなわち持続可能な社会とは、地球環境がその機能を維持し続けながら、将来の世代に渡って存続していける社会を指すと言えるでしょう。
持続可能性という言葉は、1987年にWCED(環境と開発に関する世界委員会)が発表した報告書の中で使われた「Sustainable Development(持続可能な開発)」がはじまりとされています。
WCEDはノルウェーの元首相グロ・ハーレム・ブルントラントの名を取って「ブルントラント委員会」とも呼ばれています。ブルントラント委員会では、「持続可能な開発とは、将来の世代が自らのニーズを満たす能力を損なうことなく、現在のニーズを満たす開発である」と定義されました。以降、この考え方は世界における「持続可能性」の基軸、共通認識となり広がっていきました。
持続可能性の5つの基本概念と4つの基軸
日本のNGO団体「ジャパン・フォー・サステナビリティ」は、持続可能性には5つの基本概念と4つの基軸があるとしました。これは、ブルトラント委員会および世界各国の持続可能性の定義を基に独自に定義づけたものです。
5つの概念
資源・容量:
有限な地球の資源・容量の中で社会的経済的な人間の営みが行われること。ありがたい、もったいないという概念。
時間的公平性:
現行世代が過去の世代の遺産を正当に継承しつつ、将来世代に対してそれを受け渡していくこと。
空間的公平性:
国際間、地域間で富や財、資源の分配が公平に行われ、搾取の構造がそこにないこと。三方よし。
多様性:
人間以外の他の生命も含め、個や種、文化的な多様性を価値として尊重すること。
意志とつながり:
よりよい社会を築こうとする個人の意志と、他者との対話を通したつながり、柔軟で開かれた相互対話と社会への参加。
JFSではこの5つの概念をもとに、持続可能性とは、「人類が他の生命をも含めた多様性を尊重しながら、地球環境の容量の中で、いのち、自然、くらし、文化を次の世代に受け渡し、よりよい社会の建設に意志を持ってつながり、地域間・世代間をまたがる最大多数の最大幸福を希求すること」と定義しています。
そして、持続可能な社会の枠組みとして、以下の4つの基軸を挙げています。
4つの基軸
環境(Nature):
地球環境、自然環境、地域環境を幅広く包含し、資源容量や生物多様性の概念を内包します。持続可能性の基層概念。
経済(Economy):
物やサービスを提供することにより、人々のくらしや生活を豊かにし、ゆとりをもたらすもの。人間の経済活動全般。
社会(Society):
人間の社会活動、政府、学校、コミュニティなど、人間生活の集合体。
個人(Wellbeing):
個人の自己実現、幸福の追求、社会参加、生活の質向上など
引用:JFS 持続可能性とは
なぜ持続可能性は重要なのか
持続可能性の重要性が叫ばれる昨今ですが、地球環境の現状は今どうなっているのでしょうか。それに対する社会的な課題と合わせて見ていきましょう。
地球環境の現状と持続可能性との関係
持続可能性を実現するためには、地球環境の現状を知っておく必要があるでしょう。
地球温暖化はいま、かつてないスピードで進行しています。18世紀後半の産業革命以降、地球の平均気温は急激に上昇し始めました。現在も世界の平均気温は年々上昇しており、長期的には100年あたり0.74℃まで上がる恐れがあると予測されています。
また、生物の多様性も脅かされています。多様性とはただ数が多いことではなく、数十億年かけて作り上げられてきた地球上の豊かな価値・資源であることを意味します。生物多様性が失われている背景には気候変動や環境汚染があり、自然資源の過剰な利用など人間の活動に起因しています。
森林の減少も深刻です。世界の森林面積はおよそ40.3億ヘクタールで、全陸地面積の約31%を占めています。この森林地帯は減少を続けており、毎年510万ヘクタールずつ(1990年から2015年までの平均)失われています。
その他にも地球人口の急増や化石燃料の大量消費、水不足など地球の健康状態は悪化の一途を辿っています。
出典・参照:環境省 世界の森林の現状
出典・参照:気象庁 世界の年平均気温偏差の経年変化
持続可能性を考える社会的な理由
持続可能性を実現する上で、地球環境の悪化と同時に世界中に存在する社会的な問題についても考えていかなければいけません。
世界の貧困者数は7億3400万人(2015年)いると言われ、そのうち3億6500万人は1日あたりに使えるお金が1.25ドル(約135円)未満という「極度に貧しい暮らし」を余儀なくされています。これは実に全体の6人に1人という割合です。
また貧富の格差も増大しています。2019年の統計によると、世界の超富裕層26人の保有資産は、世界人口の下位約38億人の総資産と同額であるというデータが出ています。全世界の経済生産は1990年以降3倍以上に伸びているにもかかわらず、貧困者層の所得に占める割合はほとんど増えていません。
そして、紛争や暴力も世界に暗い影を落としています。1946年以降、絶対戦死者数は大幅に減りましたが、紛争や暴力は逆に世界中で増加しています。コミュニティ間の対立は長期化する傾向にあり、国の開発は停滞し経済成長にも重大な影響を与えています。
持続可能性を実現するため、目の前に立ちはだかるこれらの壁を1つずつ乗り越えていくことが強く求められています。
出典・参照:日本ユニセフ SDGs17の目標 1.貧困をなくそう
出典・参照:経済産業省 貧困の減少と格差
持続可能性を実現する要素と方法
それでは、持続可能性を達成するために具体的に何が必要になってくるのでしょうか。重要な要素と、持続可能性実現のための具体的な方法を解説します。
環境的、経済的、社会的要素について
持続可能性は、環境保護、経済開発、社会的包摂の3つの観点から考えていく必要があり、これらが相互に関わり合い調和していくことが不可欠です。
環境保護…自然や生態系などの環境保全に努め、天然資源を枯渇させない、環境汚染が再生できる範囲内で利用・処理できるようにすることが必要です。
経済開発…経済活動を通じて富や価値を生み出し続けながら、かつ公平で適正な市場取引を可能とする経済システムの実現、環境や社会に配慮した企業の行動が求められます。
社会的包摂…社会的立場に関わらず一人ひとりの人権が尊重され、すべての人が差別から守られ、文化的・社会的多様性が保障されるようにすることが必要です。
エネルギーの使用の最適化とリサイクル
持続可能な社会を実現するためには、エネルギー使用の最適化が重要なファクターです。
そのためには、温室効果ガスを排出しない、低炭素で生産できる再生可能エネルギーの比率を増やしていく必要があります。太陽光や風力、地熱、水力などの再生可能エネルギーは、環境が整っていれば永続的に得られるエネルギーです。
しかし、すべてを再生可能エネルギーに切り替えるには、まだ課題も多くあり難しいのが現状です。そこで注目されているのが「エネルギーミックス」です。例えば、太陽光エネルギーを主としながら、単独で供給しきれない夜間などの電力を火力発電で下支えするという考え方です。エネルギーによるメリット・デメリットをお互いに補完し合うことで、安定的な供給を行っていくことが期待できます。
世界では先進国を中心に大量の資源が消費されており、地球の生産力が追いつかなくなっています。また、廃棄されたごみはそのまま海へ放出され、海洋汚染を深刻化させています。
この問題を解消するためには、リサイクルの割合を増やしていかなければいけません。
日本のプラスチック有効利用率は85%ですが、そのほとんどがゴミを燃やした熱をエネルギーとして利用するサーマルリサイクルという方法です。ヨーロッパではサーマルリサイクルをリサイクルの概念に含めておらず、これを除くと日本のリサイクル率は19.9%となり、世界的に見るとかなり低い水準であると言えます。
またリサイクルを含めた3R(リデュース、リユース、リサイクル)を推進し、ごみを出さないようにする、ものを大切に扱い長く使うことも大事です。
出典・参照:環境省 ごみの排出・処理状況
具体的な持続可能性への取り組み事例
企業や個人レベルでの具体的な持続可能性への取り組み事例、それぞれの効果やその意義についてご紹介します。
企業における取り組み事例
カルビーの事例
菓子製造などを手掛ける大手食品メーカーのカルビーでは、食の安心・安全の確保、多様性を尊重した全社員の活躍推進、10年間で女性管理職の登用率を20%以上に引き上げるなどの積極的な取り組みを行っています。
その結果、温室効果ガスの排出量を11.4%削減、製品フードロスを11.8%削減、女性管理職比率23.3%などの実績を上げています。その他にも掲げたほとんどの目標を達成し、環境や社会への貢献を実現させています。
ユニクロの事例
アパレル業界大手のユニクロでは、すべての商品をリユース・リサイクルする取り組みや、世界の海洋ごみを減らすためのゴミ拾い活動、貧困などに苦しむ人々へ衣服をプレゼントするプロジェクトなどを行っています。
スターバックスの事例
世界的なカフェチェーン企業のスターバックスでは、資源を生み出し還元していくビジョンを掲げ、再利用可能なカップでの提供や、環境負荷を抑えた再生可能エネルギーを利用した店舗の設置など多くの取り組みを行っています。
また、原料調達でフェアトレードを守ること、従業員の労働環境を守ることなども重視しています。プラスチックの使用削減や、働きやすい環境づくりなどにおいて国内でも高く評価されています。
個人レベルでの取り組み事例
国や企業に比べて、個人で行える持続可能性への取り組みはそう多くないように思うかもしれません。しかし、行えることは数多くあり、一人ひとりの行動が大きな力となります。
国連では、持続可能な社会のために「ナマケモノにもできるアクション・ガイド」という資料を公開し、個人レベルでのアクションを呼びかけています。
レベル1:ソファに寝たままできること
電気を節約する、使っていない時は完全に電源を切る
印刷はできるだけしない、ノートにメモする、デジタル付箋を使うなどで紙を節約する
持続可能な取り組みをしている企業の製品を買う
レベル2:家にいてもできること
古い電気機器から省エネ家電へ買い替えする
紙やプラスチックのリサイクルをする
生鮮品や残り物、食べきれない時は冷凍して食品ロスを減らす。
レベル3:家の外でできること
買い物は地元で行い、地域企業を支援し雇用を守る
大きさや形、色などが合わないだけで捨てられてしまうような「訳あり品」を買う
外食では海にやさしい「サステナブルシーフード」を使っているか確認する
レベル4:職場でできること
職場の人すべてが医療サービスを受けられているか、労働者としての権利を知る
あらゆる場所で残っている男女の賃金格差を知り、同一労働同一賃金の声を上げる
職場の差別には声を上げる。性別や人種、性的指向などに関係なく人はみな平等
代表的なものだけでもこれだけのアクションがあります。小さなことでもできるところから始めてみましょう。