ChatGPTの例でも分かる通り、今や人間の脳を模したニューラルネットワークアルゴリズムによる機械学習の中でもさらに深層の機械学習――これをディープランニング(深層学習)という――によるAIソリューションが続々と登場しています。
ここではディープラーニングに焦点を当てて、ディープラーニングとは一体どういうものなのか解説していきます。
ディープラーニングとは?
ディープラーニングとは、そのままだと何の役にも立たないビッグデータに何かしらのパターンやルールがあるのかを見つけるために考え出されたアルゴリズムで、人間の脳を模したニューラルネットワークアルゴリズムにより、多層、若しくは深層でデータを学習することをいいます。
一般的なプログラムはインプット(入力)すればアウトプット(出力)するだけのものですが、ディープラーニングではインプットとアウトプットの間に何層もの中間層、つまり、多層のニューラルネットワークアルゴリズムのプログラムが存在するのです。
ディープラーニングのはじまり
まず、ディープラーニングの概要ですが、データィープラーニングは人間の脳を模したニューラルネットワークアルゴリズムのプログラムのことで、インプットとアウトプットの間に多層(深層)のニューラルネットワークが存在し、そのことでデータを学習することでそのデータにあるパターンやルールを顕在化させて、人間では分析できなかった大量のデータを判別・認識・解析するものです。
ディープラーニングのはじまりは、2012年のことといわれています。
2012年に行われた画像認識を競う大会「ILSVRC(Imagenet Large Scale Recognition Challenge)」のことでした。
この大会は画像に映っているものが何かを当て、エラー率を競うというものです。この大会で優勝したのが、ジェフリー・リントン率いるトロント大学のチームが開発した「Super Vision」で、エラー率15.3%というこれまででは考えられない数字を叩き出したのでした。
2位の東京大学のエラー率26.1%を大きく引き離し、それは余りに衝撃的だったのです。
ここで使われたのがディープラーニングで、このことよりディープラーニングで世に広く知られることになりました。
ニューラルネットワークとディープラーニング
ニューラルネットワークとは人間の脳の神経回路を模して学習するアルゴリズムです。
人間の脳内では無数のニューロンが結びついて電気信号のやり取りをしています。
それを模したニューラルネットワークでは、例えばステップ関数などを使って0か1の信号を送るその処理の途中で入力値(特徴量)に0から1であらわされる重さ――これは人間の脳ではシナプスの放出の閾値を決めることです――を掛け合わせて値を出力します。
ニューラルネットワークは人間の脳のように複雑な処理をするために、ニューラルネットワーク(パーセプトロンとも呼びます)を何層にも結合させ(深層)、処理することをディープラーニングといいます。
AI、機械学習、ディープラーニングの関係はAI>機械学習>ディープラーニングとなりますが、今ではAIといえばディープラーニングのことといえるほどにディープラーニングが大きな役割を担うようになっています。
ディープラーニングの特徴
上述のようにディープラーニングはインプットとアウトプットの間に中間層(隠れ層ともいう)を結合させ、その中間層が何層もの多層で結合させることでより複雑な処理が可能になり、精度も格段に上がるのが特徴です。
例えば、手書き文字認識の「3」をAIが認識するのに手書き文字の領域を分解し多層化して判断基準(ルール)を見つけ出すのです。
2×2に分割すると、左上のブロックは「右肩上がりの線が多い」「左下が途切れていることが多い」というのが「3」という数字の特徴とみなされます。
さらに、特徴を詳細化すると左上のブロックを2×2と再分割して判断基準を見つけ出します。
このようにどんどんと細分化してゆくこと、つまり、ニュ―ラルネットワークを多層化することで、正確な判断基準が得られるのです。
ディープラーニングが他のAI技術と異なる点
ディープラーニングが他のAI技術と異なる点は、なんといってもニューラルネットワークを使用しているか否かということです。
つぎに、他のAI技術に比べて大量のデータを学習することです。そして、人間が介在せずにタスクを実行することです。
ディープラーンニングは、このことにより他のAI奇術に比べて高精度、汎用性、自動化を実現しています。
ディープラーニングの驚異的な能力
ディープラーニングの驚異的な能力は、AIだとコンピュータを操る人間がモノを判別するルールを指定しなければならないのですが、ディープラーニングではコンピュータ自身がモノを認識・判別・解析することです。そして、ディープラーニングの精度は、いかに大量のデータを学習するかにかかっているのですが、昨今のIT技術の進歩により短時間で大量のデータを学習できるようになり、益々、ディープラーニングの精度は格段に上がり、その進歩の速さは凄まじいものがあります。その結果、大規模言語処理が可能になり、ChatGPTなどの生成AIが続々と登場しています。
しかし、ネットは生成AIの情報で溢れてきているので、ネット上のデータで学習する生成AIの質は落ちてきているのではないかと一部でいわれ出しています。
ディープラーニングの応用例
まず、画像を入力して、その中間層を構造化し、画像を認識・判別・解析します。
その応用例に、手書き文字、顔認証、Web上の検索、医療検査、そして自動運転などがあります。
次に、音声を入力して、テキストに変換したり、その音声を識別したりします。
その応用例として、スマートスピーカーやSiriなどのバーチャルアシスタントなどです。
次に、人間が日常で使う書き言葉や話し言葉をコンピュータに処理・理解させる技術です。
その応用例として、自動翻訳、ブラウザの検索、コールセンターでの自動応答などです。
これが特に進歩したものがChatGPTなどの生成AIです。
次に、ロボットなどにつけられたセンサーから送られてくる電気信号から過去の厖大なデータから判断して異常を感知します。
その応用例として、製造現場での異常や故障の検知などです。
その他として、囲碁や将棋でのプロ棋士と対決したAIや、金融トレーディング(投資のタイミングの判断)などでもディープラーニングが活用されています。
自動運転と医療診断への応用
自動運転は進路の決定や危険察知に安全を確保しなければならないためにかなり精度の高い判断と検知をしなければ、自動運転はできません。
現時点では高速道路では完全自動運転は成功していますが、高速道路よりも不測の事態が途轍もなく多い一般道路ではまだ、完全自動運転は問題が残されています。
また、医療診断への応用では画像認識による病巣の発見などに期待されています。
人間の目では見落とす小さな影などをディープラーニングで画像認識の学習を積んだ画像認識システムが見つけるなど医師への負担が減り、また、医療精度も格段に上がり、既に医療現場で活用されています。
自然言語処理と質問応答システムの進歩
自然言語処理は大規模言語処理が可能となり、ChatGPTなどの生成AIが登場してこの分野はどこまで発展するのか見当もつかないほどの成果を上げています。
ただし、学習するデータが生成AIの生成したものでは質が落ちるといわれていて、ネットに溢れ出す生成AIの生成物を学習するというジレンマにあるという事態に陥る可能性が高いので、これがこれからの問題と思われます。
質問応答システムも生成AIと組み合わせることで格段に質問応答が正確で自然な流れになっています。
生成AIが登場する前は、質問応答システムはどこかちぐはぐな感じが拭いきれませんでしたが、生成AIと組み合わせることでとても自然な質疑応答ができるようになっています。
ディープラーニングの課題と今後
ディープラーニングの課題として、例えば生成AIでは個人情報の取り扱いの問題や著作権の問題が取り沙汰されたています。
また、ハリウッドではエキストラがAIにデータを読み取らせて、そのデータを使って、後はCGでエキストラの登場シーンは生成するということがいわれていて、大問題になっています。つまり、使い方を考えないと生成AIにより仕事が奪われかねないのです。
これも課題です。
そして、ディープラーニングの今後は、さらに人間の脳に近いアルゴリズムの開発競争が過熱して途轍もない速さで、例えば生成AIは進歩するでしょう。
そのときに問われるのは人間存在の在り方の根本です。ある分野では既に人間の能力を凌ぐディープラーニングをどう扱うかはひとえに人間にかかっています。つまり、ディープラーニングの課題と今後は人間次第といえます。
データ収集の問題とブラックボックス
上述したようにディープラーニング、特に生成AIの場合、データ収集で個人情報の取り扱い方や著作権の問題などクリアしなければならない問題が多々あります。
既に画像生成AIではクリエータから著作権侵害の訴えが起こされたり、アイドルの画像を使って画像生成AIで写真集を作って電子書籍で売られていたりなどという問題が起こっています。これらの問題は規制をして解決するのかどうかが世界各国で話し合われています。
また、ディープラーニングの仕組みは分かってもどうしてAIがそう判断しているのか誰にも分からないブラックボックス性も問題です。それがディープラーニングに絶対的な信が置けない原因でもあり、人間が抱くAIに対する不信感に繋がっています。
このブラックボックスを少しでも明らかにしようとする試みもとうに始まっていますが、いかんせん、進歩の速度が速すぎるためにブラックボックスの見える化はお手上げ状態というのが実際です。
このまま、ディープラーニングがブラックボックスのまま急速な進歩を遂げて行くのは、やがて人間の不信感が頂点に達して規制によりディープラーニングががんじがらめになる可能性も否定できません。
ディープラーニングの未来と可能性
生成AIの登場により世界中で生成AIの開発競争が始まっています。中には生成AIは原爆より危険だという声もありますが、生成AIの進歩は誰にも止められないでしょう。
ディープラーニングの未来の可能性は広がるばかりで、規制をかけたところで、その進歩は止められません。試されるのは人間の方です。
仮にディープラーニングが人間を超えた超知能が登場した場合、人間の振る舞い一つにかかっています。
つまり、ディープラーニングの問題は人間の問題に集約されます。