脱炭素とカーボンニュートラル。どちらも脱炭素に関する重要なキーワードですが、目標や取り組みは異なります。この記事では、脱炭素とカーボンニュートラルそれぞれの定義を解説した上で、2つの違いについて見ていきます。
脱炭素とは?
まずは、脱炭素および脱炭素社会の定義と、その達成に向けた具体的な取り組みや目標について解説します。
脱炭素とは
「脱炭素」とは、地球上の社会において二酸化炭素の排出を完全にゼロにすることを指します。この概念は、環境汚染が深刻化した1960年代以降に生まれ、1972年には初めて国際的な環境問題を探るための国際会議が開催されました。
それ以降、1997年の京都議定書やパリ協定など、多くの国際協議が行われ、脱炭素社会の実現に向けた合意と行動が確立されています。
また「脱炭素社会」は、地球温暖化の主要な原因である二酸化炭素の排出量を、完全にゼロに抑えることに成功した社会の理想像のことです。
脱炭素社会にするにはどんな取り組みが必要なのか
脱炭素社会に向けての取り組みとしては、持続可能なエネルギー源への移行、省エネルギー技術の採用などがありますが、それらへの個人としての積極的な参加が不可欠です。
「COOL CHOICE」などの運動は、一般の消費者に対する意識啓発と行動変容を促すための取り組みとして注目されています。
例えば、持続可能な交通手段であるエコカーの購入や、公共交通機関の積極的な利用は、個人の交通に伴う炭素排出を削減します。
エコカーの導入を積極的に行っている企業もあり、アステラス製薬は、2008年以来、営業用のリース車両2000台をハイブリッドカーに切り替えました。さらに、オリックス自動車と連携して、環境課題への取り組みを強化する車両管理体制を構築しています。
また、省エネ家電やエネルギー効率の高い機器を選択することで、電力消費を減少させ、エネルギー効率の向上も実現可能です。
例えば、三菱のエアコンは、省エネ基準達成率が124%(2010年度)を誇り、「A.I.自動」ボタンを押すだけで、人工知能が住宅の性能を分析し、外気温の変化や個々の体感温度などを予測して運転を自動的に制御してくれます。オン/オフのタイミングを最適化し、異なる温冷感を持つ2人の人々に対しても気流を調整するため、エネルギーの無駄がありません。必要な時に必要なだけ暖めたり冷やしたりすることが可能で、省エネに繋がっています。
これらの取り組みは、個人の日常生活において実践可能であり、脱炭素社会の実現に向けた大きな一歩です。
カーボンニュートラルとは?
続いて「カーボンニュートラル」の概念と、その達成に向けた具体的な取り組みや目標について解説します。
カーボンニュートラルとは
「カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスの排出を削減し、特に二酸化炭素を森林などで吸収する取り組みを通じて、実質的に排出量がゼロになるような状態のことです。コンセプトとしては、温室効果ガスの排出と吸収のバランスが重要で、「実質ゼロ」という考え方に焦点が当てられます。
これは、地球温暖化や気候変動の主要な原因である温室効果ガスの人為的な排出を根本的に削減することを意味します。
政府などは、2050年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げることで、地球環境への負荷を軽減し、現在では持続可能な未来を築く方向に進んでいます。
カーボンニュートラルを実現化するにはどんな取り組みが必要なのか
カーボンニュートラルを実現するために、国内外問わずに取り組みが行われています。
例えば、日本政府は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、14種類の産業に焦点を当てました。14種類の産業は、エネルギー関連、輸送/製造関連、家庭/オフィス関連の3つに大別され、それぞれに対する実行計画としては「グリーンイノベーション基金の創設」や「脱炭素化効果の高い製品を製造する際の設備への税制を優遇」が挙げられます。
また、企業も取り組みを行っています。
ヤマハ発動機株式会社は、従来の2ストローク型エンジンから、排気煙の少ない4ストロークエンジンへの移行を実施しました。この技術の切り替えにより、よりクリーンな排気を実現し、2050年までに2010年比で排出量を90%以上削減する目標を設定しています。
阪急電鉄株式会社は、日本で初めて「カーボンニュートラル・ステーション」を導入しました。年間に排出される70トンの二酸化炭素のうち、約36トンは太陽光発電とLED照明の導入により削減、また残りの34トンは環境価値証書などを購入して相殺し、カーボンニュートラルを達成しています。
脱炭素とカーボンニュートラルの違い
脱炭素とカーボンニュートラルそれぞれの定義を理解したところで、2つの違いについて見ていきます。主な違いは、目指す目標と取り組み内容です。
目指す目標の違い
脱炭素とカーボンニュートラルは、目指す目標において異なるアプローチを持っています。
まず、脱炭素は、一般的に「炭素社会を脱する」という目標を掲げており、具体的には温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを指します。目標達成のアプローチとしては、炭素排出そのものを根本的に削減し、地球温暖化の影響を軽減することに焦点が当てられています。
一方、カーボンニュートラルは、個人や組織が自身の二酸化炭素排出と、自身が育てた森林や他の炭素吸収手段によって吸収された二酸化炭素との差し引きを、ゼロにするのが目標です。つまり、自身が排出した炭素を、自身の取り組みによって補完し、二酸化炭素ゼロの状態を目指します。このアプローチは、炭素排出と吸収のバランスを取ることに焦点を当てています。
取り組みの違い
脱炭素とカーボンニュートラルの違いは、取り組み内容にもあります。
まず、脱炭素は、主に二酸化炭素の排出自体をなくすことを目的としているため、企業や個人は日常の行動で無駄な電力やガソリンの使用を減らす必要があります。これには、待機電力の削減や、自家用車の代わりに公共交通機関を利用するなどが含まれます。要するに、排出源を減少させる取り組みが基本です。
それに対してカーボンニュートラルは、森林管理や植林などによる炭素吸収量を重要視し、排出源を削減するだけでなく、森林などの吸収作用を促進・保全する必要があります。つまり、環境に炭素を追加せず、実質的にゼロにすることが、カーボンニュートラル実現のための取り組みです。
2つの取り組みが作る未来
最後に、脱炭素とカーボンニュートラルの取り組みが地球温暖化防止にどのように貢献し、未来の持続可能な社会を形成していくのかについて考察します。
地球温暖化防止の実現にむけて
脱炭素とカーボンニュートラルの取り組みは、地球温暖化の防止に向けた重要な行動です。まず、脱炭素の観点から見ると、二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出を削減することは、気温上昇や極端な気象事象の抑制に大きく貢献します。また、温暖化による海面上昇の防止や生態系の保護にも関係し、生活環境を守る役割を果たします。さらに、企業や個人のエネルギー効率向上やクリーンエネルギーの導入によって、炭素排出を削減し、地球温暖化の進行を遅らせることが可能です。
一方で、カーボンニュートラルの観点から見ると、吸収と排出のバランスを取ることによって、炭素の排出をゼロに近づけることができます。特にカーボンニュートラルの達成に向けて行われる、森林管理や植林が重要です。森林は大気中の二酸化炭素を吸収し、酸素を供給する役割を果たします。森林の保全と増加を行うことで、炭素バランスを改善し、気候変動の緩和が期待できます。
持続可能な社会の実現にむけて
脱炭素とカーボンニュートラルは、単なる温暖化防止だけでなく、持続可能な社会の構築にも役立ちます。
まず、脱炭素は、エネルギーの効率化やクリーンエネルギーを普及させ、新たな雇用機会を創出する可能性があります。また、再生可能エネルギー産業や環境技術の成長を支え、経済の多様性を促進に繋がります。
カーボンニュートラルは、生態系の保護と再生、森林保全に焦点を当てることで、生態多様性の維持や木材の確保にも貢献します。
脱炭素とカーボンニュートラル、それぞれの取り組みにより、持続可能な経済と環境の調和が実現可能です。