国際的に喫緊の課題であるCO2削減に関して、運輸部門の中でもトラック業界が対応を考えることは避けて通れません。
トラック業界が行う環境問題とCO2削減への取り組みや目標設定、実践すべきエコドライブなどをご紹介します。
トラック業界の環境問題と規制への対応
国土交通省は、令和3年に「国土交通省環境行動計画」を改定しました。
CO2排出量の多い運輸部門の脱炭素化を主軸に取り組み、気候変動への適応策、環境施策全般にわたり、対策を強化していくことが設定されています。
これに基づき、トラック業界はどのような対応をしているのでしょうか。
参照:環境行動計画|国土交通省
排出ガスとCO2削減への挑戦
2021年度時点で、国内のCO2排出量(10億6,400万トン)のうち、運輸部門からの排出量(1億8,500万トン)は17.4%を占めています。
さらに、大型トラックなどの貨物自動車は運輸部門の39.8%(日本全体の6.9%)のCO2を排出しているため、トラック業界の対応は大きな影響を与えることは間違いありません。
以下が排出ガス・CO2削減のために実行されている対応例です。
共同配送と運輸網の集約
各運輸網の集約・共同配送をすることは、効率的に輸送することが可能になり、CO2の削減効果も期待できます。
近年、消費者のニーズが高度化・多様化していることによる小口輸送多頻度化への対応が求められていて、課題も多く存在します。複数の運輸企業や事業所が連携して集約・共同配送を行うことで輸送や保管、荷さばきを行うことは、様々な課題を解決していくひとつの方法となります。
参照:国土交通省『施策集』
次世代自動車の導入
現在、環境配慮にともなってトラック運送業界では次世代トラックの開発・普及促進が進められています。
プラグインハイブリッドトラック
電気動力と内燃エンジンの両方を装備する車両を指しており、通常のトラックに比べてCO2排出量を削減することができます。
EV(電気)トラック
EV乗用車同様に、EVトラックは、CO2排出がゼロであることが最大のメリットです。また、再生可能エネルギー由来の電気を使用することが重要です。しかし充電スタンドは増えつつありますが、乗用車用がメインでありトラック用のスペースは限られていることが課題です。
燃料電池トラック
注目が高まる水素を燃料とした燃料電池トラックも、CO2を出さないクリーンなエネルギートラックです。しかしEVトラック同様、水素ステーションの場所が限られていることが課題として挙げられています。
政策と業界の連携による未来への一歩
国土交通省が令和3年12月に「国土交通省環境行動計画」を改定し、運輸部門の脱炭素化を主体に、気候変動への適応策や環境施策を強化していくことが設定されています。
令和3年度に経済産業省と国土交通省が実施した「グリーン物流優良事業者表彰」を受賞した、優良な会社の取り組みを見てみましょう。
モーダルシフトで環境負荷と運送コストを削減
株式会社メディセオは、埼玉県と岩手県の物流センター間において、医療用医薬品の移送を従来大型トラックで輸送を行っていたところ、鉄道コンテナ輸送へのモーダルシフトを実施し、ドライバーの長距離・ 長時間運行の削減・環境負荷低減、トータル運送コストの削減を実現しています。
物流集約で積載率向上
愛知製鋼株式会社とアイチ物流株式会社は、積載率の悪い納入先を対象として関係各所と調整を重ね、物流効率を上げています。
また、顧客・商社・加工先の協力のもと、荷量を集約し配送することで積載率も向上させました。
カーボンニュートラルへの取り組みとビジョン
全日本トラック協会は、トラック運送業界全体での2030年カーボンニュートラルを目指すため、「トラック運送業界の環境ビジョン2030」を策定しました。CO2排出原単位の削減を業界目標とし、2030年のCO2排出原単位を2005年度比で31%削減することをメイン目標に設定しています。
2030年と2050年の目標設定
前述の「トラック運送業界の環境ビジョン2030」では、2030年度の営業用トラック輸送トンキロあたり、CO2排出原単位を2005年度比で31%削減することを目標にしています。
営業用トラックの輸送量は経済情勢により大きく変化し、それに伴いCO2排出量の絶対値も変化しますが、上記目標値は最低クリア条件とされています。
また2050年に向けたカーボンニュートラルの達成目標として、EV(電気)トラック、燃料電池(水素)トラック、高効率天然ガストラックなどの革新的技術をともなった実用的な車両を市場に投入し積極的に導入することが設定されています。
参照:トラック運送業界の環境ビジョン 203|全日本トラック協会
持続可能な輸送の実現に向けた戦略
輸送の持続可能性について重要なカギとなる、EV・燃料電池・プラグインハイブリッドトラックの普及に向け、EV充電設備の公道設置の検討や走行中給電システムの研究開発が進められています。
インフラ設備は必須課題であり、急速充電器15万基を設置し、遅くとも2030年までにガソリン車並みの利便性を実現することを目指しています。
また、水素ステーションについては、2030年までに1,000基程度、物流を考慮しながら最適な配置となるよう整備することとしています。
またサステナブルな輸送実現に求められる対応として、以下が挙げられます。
・次世代トラックの普及拡大、燃費改善
・トラック輸送の効率化、共同配送の推進
・次世代トラックに必要なインフラの導入拡大
・物流分野のデジタル化
・AI活用したサプライチェーン全体の大規模な高効率化
・物流施設における燃料電池等導入などによるゼロエネルギー化の促進
エコドライブの実践と成果
環境配慮対策がさまざま実施されている中、「エコドライブ」という言葉が示すとおり、運転方法を転換していくことであらゆる効果が期待できます。
最後に、エコドライブの具体的な実践方法と効果やメリットなどをご紹介します。
エコドライブの具体的な手法と効果
エコドライブと言っても、特別難しい運転技術を要するものではなく、運転中に気を配るだけで誰にでもエコドライブの実践が可能です。
環境対策と経済性の高い運行の両実現が期待できる、エコドライブ手法は以下が挙げられます。
もはや常識、アイドリングストップ
1日の運行時、トラックは馬鹿にできない時間をアイドリングに費やしています。
アイドリングストップはエコドライブの最初の1歩です。
低燃費走行は緩やかな発車から
重量の大きなトラックの発車時はエンジンへの負担が大きいもの。燃料消費が大きくなりがちな急発車を避け、緩やかな発車を心がけましょう。
減速時には早めのアクセルオフを
アクセルをオフにし、エンジンブレーキを効果的に活用することは、約2%の燃費向上が期待できます。
運行ルート選択
渋滞しがちなルートを避けながら最短ルートでトラックを運行させることもエコドライブと言えます。
タイヤの空気圧管理
タイヤの空気圧が適正圧より低いと燃費が悪化することは周知の上ですが、適正値より約50kPa(0.5Kg/cm2)不足すると、市街地で約2%、郊外で約4%も燃費が悪化すると言われています。
成功事例と業界の取り組み
日本の物流サービスの大手、約90年の歴史を有するセイノーホールディングス株式会社(セイノーホールディングス)の子会社の1つ、西濃運輸株式会社(西濃運輸)。
同社はエコドライブの推進において顕著な取り組みを行う企業を表彰する「エコドライブ活動コンクールの事業部門」で、最優秀賞にあたる国土交通大臣賞を過去6年間に2度も受賞しています。
西濃運輸は2006年から、エコドライブにおけるドライバーの意識向上や教育、エコカー導入、他にも燃費効率の良い運転を実現するための取り組みを行なっています。
同社はさらに、様々な手段によってCO2排出量削減に加え、ドライバー不足問題の解消にも尽力しています。
2018年には、西濃運輸は車両長が当時の特車許可基準より数メートル長い、全長25メートルの「ダブル連結トラック」の導入にあたり、国土交通省が実施した実証実験に参加しました。
この実験によって、標準的なトラックを使用するよりも、ドライバー数を半減でき、燃料消費量も抑え、CO2排出量は40%削減することが可能であることが実証されました。
このように、今日の環境および社会問題の両方の解決に全力で取り組んでいます。
その他に、2019年度エコドライブ国土交通省大臣賞を受賞した茨城流通株式会社は、関東全体が100km圏内に入るという立地を生かし、核になる貨物(顧客)をベースに中ロットを積み合わせる、集荷・積み込みにコストをかけない、配送エリア・取扱貨物を絞り込む、同業他社とのネットワーク化というコンセプトの下で情報システム、輸送品質の向上、環境に配慮した配送を進めています。
参照:環境方針|西濃運輸 茨城流通サービス株式会社 | エコノミーでエコロジー・エコネット便の茨城流通サービス エコドライブ活動コンクール – 優秀取組事例集交通エコロジー・モビリティ財団