loTやICTなど最先端技術の話題の中で、スマートシティという言葉を耳にすることも多くなってきたのではないでしょうか。今回は、スマートシティが社会にもたらす影響やメリット、具体的な事例、技術的な進展や将来の展望について解説します。
スマートシティとは?基本から理解する
スマートシティとはそもそも何を意味する言葉なのでしょうか。スマートシティの基本概念、国内外の具体的事例を紹介します。
スマートシティの定義と目指す未来
スマートシティとは、IoTやAIなどの最新技術を用いて、人々の生活の質を高める新たな価値づくりに取り組む都市や地域のことを指します。エネルギーの使用や交通網など都市の基盤をデジタル技術で効率化し、利便性が高く住みやすい街をつくることがスマートシティの目的です。
現代社会においては、都市部への人口集中による環境悪化、交通渋滞、エネルギー消費の増加など様々な社会課題が存在します。これらの解決手段として期待されているのがスマートシティであり、持続可能な都市を実現するべく世界各国で積極的な開発が進んでいます。
日本と世界の事例から学ぶ
日本国内でも、多くの自治体がスマートシティの取り組みを活発に行っています。たとえば長野県伊那市の取り組みは、スマートシティ実現の必要性を如実に示す実例です。同市では、高齢化により生活インフラの確保が難しい地域において、最先端技術で生活の質を向上させる「スマートローカル」を推進しています。
たとえば、ドローンを使用した食料品や日用品の配送サービスや、AIによるタクシーの自動配車サービス、移動診療車によるモバイルクリニックなどがその代表例です。
海外でも多くの先行事例があります。スペインのバルセロナはスマートシティの先進都市として「Barcelona Digital City」を掲げ、様々な取り組みを推進しています。Wi-Fiを基盤としたスマートサービスを提供、行政サービスの効率化を行っており雇用創出など大きな経済効果を上げています。また、デジタル参加型プラットフォームを用いて、市民が意思決定に参加できるシステムの構築も行なっています。
出典・参照:地域による地域のためのスマートローカル– 伊那市
出典・参照:P10〜13 スマートシティの事例
日本の2つのスマートシティ
国内で先進的なスマートシティプロジェクトを進めている代表例として、裾野市と福岡市の事例を見てみましょう。
裾野市のWoven City
トヨタが開発を進めているスマートシティの実験プロジェクトに、静岡県裾野市の「Woven City」があります。Woven Cityは、トヨタ自動車東日本東富士工場跡地に2,000人が入居できる実験都市を建設し、以下のような最先端技術の検証や実験を行うための一大プロジェクトです。
・自動運転技術
・Maas(モビリティ・アズ・ア・サービス)
・パーソナルモビリティ
・ロボット技術
・スマートホーム技術
・AI(人口知能)技術
実際に人々が生活するリアルな環境において実験・検証を進めることで、新たな価値の創造やビジネスモデルの構築を目指すとしています。2021年に建設がスタートしており、2024年夏には完成の予定。2025年に一部の実証実験が始まる予定です。
出典・参照:TOYOTA TOYOTA WOVEN CITY
福岡のFUKUOKA Smart EAST
福岡市では、九州大学と連携した「FUKUOKA Smart EAST」というスマートシティプロジェクトを立ち上げ、最先端技術を導入した様々な取り組みが行われています。少子高齢化など様々な社会課題の解決、都市の持続的な発展を実現することが目的で、具体的な取り組みには以下のようなものがあります。
・自動配送ロボット、自動運転バス
・ドローンによる飛行実験
・テレビを使ったオンライン診療
・自律走行除菌ロボット
・自動翻訳ツールを活用した災害避難の実証実験
同プロジェクトでは、取り組みの拠点となる九州大学箱崎キャンパス跡地を利用したまちづくりを皮切りに、ゆくゆくは全市に取り組みを広げていくことを目指すとしています。
出典・参照:FUKUOKA Smart EAST これまでの実証実験やイベント
スマートシティの技術とサービス
スマートシティでは、都市や地域の運営効率を上げ、生活の質を高めるために様々な最先端技術が活用されます。スマートシティ実現に必要な具体的な技術とサービスを見ていきましょう。
5GとIoTの役割
スマートシティの実現には、高度な通信ネットワーク技術が欠かせません。中でも注目されているのが5Gです。従来の通信技術から格段に性能を上げた5G通信においては、大容量のデータも少ないタイムラグでスピーディーに送受信できます。
また、5Gの特徴・メリットを活かし、車や家電、産業用設備、様々な日用品などをネットワークで接続するIoTの普及も進んでいます。IoT(Internet of Things)は、”モノのインターネット”を意味し、車や家電などをデバイス化することで遠隔操作やアプリなどとの連携を可能にする技術です。たとえば、IoTを車に導入すれば、位置情報や走行状況などのデータを集められ、運転を制御することなどが可能になります。
スマートシティを実現するには、IoT化が必須で、そのために5Gの活用が不可欠と言えるでしょう。
AIとデータ連携の可能性
スマートシティを推進していく上でもう1つ重要なのが、AIを活用したデータ連携基盤の整備です。データ連携基盤とは、異なる複数のシステムやサービス間で蓄積された異なる形式のデータを効率的に収集・変換・管理するための基盤となる仕組みやシステムを指します。
たとえば、地域の高齢者の通院対策や健康サポートにこのデータ連携基盤が大きな役割を果たします。AIによる自動走行車両や公共交通サービスの配車システムと、通院予約や遠隔医療といったサービスが効果的に連携されることで、地域における包括的なケアが可能になるからです。
都市機能の効率化と新たな価値創出を実現する上で、交通や医療といった複数の異なるジャンルがスムーズに連携できるシステムの構築は極めて重要と言えるでしょう。
スマートシティの課題と未来
スマートシティの推進には多くのメリットがある一方で様々な課題もあります。スマートシティを推進していく上での問題点と将来の展望について見ていきましょう。
現在抱える課題と解決策
課題の1つとして挙げられるのが、プライバシー保護の問題です。スマートシティで収集される多くのデータの中には、行動履歴や通信履歴など個人のプライベートな情報が含まれています。情報収集に抵抗を感じる住民の理解・協力をどのようにして得るかは大きな課題の1つと言えるでしょう。セキュリティ対策、データ管理の強化、個人情報の利用範囲など明確なルール作りを、市民と行政が一体となって取り組む必要があります。
また、セキュリティをどう管理していくかという問題もあります。多くの情報がオンラインでやり取りされるスマートシティにおいては、サイバー攻撃やネットワークトラブルなどのリスクは避けられません。最悪、交通や通信、経済など、都市機能がストップしてしまう恐れもあります。情報セキュリティの強化やリスク管理の体系づくり、迅速に対応できる体制構築などの対策が急務です。
前述したバルセロナ市では民間企業と連携し、Wi-Fi等のIoT機器接続インフラ、データ共有・接続認証等のネットワーク・通信プラットフォームを共通化することで、セキュリティ対策を施しています。
スマートシティの未来展望
スマートシティを成功させるためのポイントは、チームが一体となった推進体制の構築です。プロジェクトの方向性を明確にし、意思統一を図ることで、計画を展開しやすくなります。目標への迅速なアプローチを可能にするためにも、推進体制の構築は重要な要素です。
資金の確保と効率化も重要です。スマートシティの実現は一朝一夕に達成できるものではなく、費用面の問題でプロジェクトが中断してしまうリスクもゼロではありません。各分野、都市・地域間の連携を進め、コストの効率化を図ることが重要になってきます。
また、市民の理解と参加を促すことも必要です。市民が積極的にプロジェクトへ関与することで、長期的な成功につながる可能性が高まります。市民の声をプロジェクトに反映して共感を高めたり、アンケート、オンラインイベントなどを活用して市民の参画を求めたりするなどの施策が有効です。
兵庫県加古川市では、バルセロナ市の市民参加型合意形成プラットフォーム「Decidim」を導入し、施設の愛称募集や河川敷の利活用アイディアの募集などを行い、市民との活発な意見交換を行っています。また台湾では、市民自らが社会課題を設定し提案を行うオンライン討論プラットフォームを設置し、市民の意見が反映される仕組みづくりを進めています。