現在、デジタル技術を活用したスマートシティという都市開発が進んでいます。生活やサービスの質を向上させるスマートシティの取り組みは世界中で行われており、日本も例外ではありません。今回は、スマートシティが私たちの生活にもたらす影響やメリットを、具体的な事例を交えて解説します。
スマートシティの基本
そもそもスマートシティとはどういった概念で、一般的にはどう定義されているのでしょうか。また、似た考え方としてよく聞かれるスーパーシティとの違いも見ていきましょう。
スマートシティとは
スマートシティとは、loTやAIなどの先端技術を用いて、交通網などのインフラやサービスを効率化し、持続可能な市民生活を実現させる都市のことです。国土交通省では「都市が抱える諸問題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画・整備・管理・運営)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」と定義しています。すなわち、スマートシティの取り組みは、地域における様々な問題を解決し、新たな価値を創出する街づくりを目指すものと言えるでしょう。
スマートシティによる街づくりは、市民の生活の質を向上させるだけではありません。人口集中による環境悪化や、交通渋滞、エネルギー消費の増加などの社会課題を解決していく上でも重要な取り組みです。持続可能な都市開発を進めるため、現在世界中でスマートシティの開発が進んでいます。
出典・参照:国土交通省 スマートシティに関する取り組み
スマートシティとスーパーシティの違い
スーパーシティとは、2020年5月に成立した「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律」、いわゆるスーパーシティ法によって掲げられた構想です。AIなどの先端技術を使って、2030年頃までに「どのような人でも暮らしやすい」未来社会を先行実現することを目指しています。
従来のスマートシティの取り組みは、エネルギー関連など個別の分野に関する実証実験などに留まっていました。そこで、あらゆる生活に関わる分野を連携し、住民のウェルビーイング向上を目指していこうと考え出されたのがスーパーシティ構想です。
スマートシティは、都市機能を最適化・効率化するために、ICTを活用するというのが基本的なフレームワークです。一方スーパーシティは、AIやビッグデータの活用はあくまで手段であり、住民が参画し、住民目線で街づくりを行っていくことに力点が置かれています。
また、スマートシティが国土交通省のモデル事業であるのに対し、スーパーシティはスーパーシティ法に基づき、規制緩和などの法整備がなされている点も特徴です。
日本のスマートシティ事例
スマートシティの取り組みでは、具体的にどのようなことが行われているのでしょうか。国内の具体的なスマートシティ事例、それぞれの特徴や住民への影響について見ていきましょう。
福島県会津若松市
福島県会津若松市では、人口減少対策や地域活性化の取り組みとして、2013年に「スマートシティ会津若松」というプロジェクトを立ち上げました。快適で住みやすい街を作るために、健康や福祉、教育、防災、エネルギー、交通、環境など様々な分野において、ICT技術を活用した取り組みを推進しています。
具体的な取り組みとして、母子健康手帳の電子化や、ウェアラブル端末を活用したヘルスケア支援、オンライン診療などを実現し、住民の健康意識向上につなげています。また、ICTを農業の分野に活用した「スマートアグリ」や、AIオンデマンド型路線バスなど公共交通分野における取り組みも盛んです。
他にも、オランダのアムステルダムとスマートシティ領域における連携協定を締結したり、全国からデジタル活用の事業誘致を行なったりするなど、活発な活動を進めています。
出典・参照:会津若松市 「スマートシティ会津若松」の取組とビジョン
北海道札幌市
北海道札幌市では、2017年に札幌市ICT活用戦略を策定、地域課題の解決とイノベーション創出を目指し、スマートシティ化を推進しています。2019年には、ICT活用プラットフォームとなるWebサイト「DATA-SMART CITY SAPPORO」を開設。また、プラットフォームの運営組織となる「SARD」を発足し、「データの地産地消」を実現することが掲げられました。
具体的な取り組みとしては、ICTを活用した健康推進プロジェクトが挙げられます。同プロジェクトは、健康長寿社会の実現と、官民データの協調利用によるデータ駆動型社会の実現が目的です。スマホアプリを使い、歩数や移動状況に応じて利用者にポイントを付与して歩行を促進。収集されたデータが、街づくりや新たなサービス開発などに役立てられます。
ほかにも、オープンデータ事業、インバウンドマーケティングの実施、キャッシュレス推進事業などが積極的に進められています。
出典・参照:札幌市 スマートシティ実現に向けた札幌市の取組と目指す姿
スマートシティのメリットと課題
スマートシティは、私たちの暮らしに様々な恩恵をもたらしてくれますが、その一方で潜在的な課題も抱えています。スマートシティを推進するメリット、今後の課題について解説します。
持続可能性と防災
ICTの活用は、現在都市が抱えている様々な社会課題を解決し、生活の質の向上につながる可能性を秘めています。都市のスマートシティ化がもたらすものは、将来の世代に渡ってすべての人々が便利で快適な暮らしができる持続可能性です。たとえば、交通渋滞の解消や、高齢者ケアの負担減、エネルギー不足などの課題解決が挙げられます。これらは、世界共通目標でもあるSDGsを達成する上でも非常に重要です。
中でも、loTやAIを活用したモビリティサービスMaas(Mobility as a Service)が注目されています。Maasは電車やバスなどの公共交通や、タクシーやライドシェアを呼べる配車サービス、自動運転などをシームレスにつなぎ、移動の利便性を高められるサービスです。様々なメリットがあるMaasですが、特に自家用車の利用を減らすことで、排気ガスの量を抑える効果が期待されています。
とりわけトヨタ自動車は、モビリティカンパニーとしてMass関連の多様な取り組みを推進しています。カーシェアリングやタクシー、物流、観光事業などでの使用を想定し、車両管理や認証機能などのAPIを提供。また、EV自動運転車「e-Palette」の実証実験も行なっています。
また、防災の観点からもメリットがあります。たとえば、loTセンサーやAIカメラを活用すれば、河川の氾濫や土砂崩れなどの発生をいち早く察知できるなど災害予測が可能です。実際に災害が発生した場合は、被災状況の把握や情報共有で、住人への的確な避難呼びかけにつながり、自然災害のリスクが高い地域では大きな役割が期待できます。
一例を挙げると、香川県高松市では、南海トラフ地震や豪雨災害の対策として、広域防災協力を行うためのloTプラットフォームを構築しています。道路交通情報、気象情報、河川水位や潮位など、関連情報を同一画面上で確認できるよう一元化し、迅速な共有の仕組みを整備。広域防災システムの高度化を進めています。
出典・参照:内閣府 P43〜広域防災〜強じんなまちづくり〜
ビジネスチャンスと社会課題
スマートシティ化が進めば、国や自治体と民間企業の官民連携が進み、新たなビジネスチャンスにつながる可能性があります。企業の活動が活発になればなれるほど、イノベーションが生まれる可能性が高まり、住民の利便性がより向上していく好循環を生み出すことができるでしょう。
一方で、今後スマートシティを推進していく上での課題も多くあり、対応していくことが必要です。たとえば、ICTシステムを活用するという性質上、システム障害が起きると都市機能そのものが停止してしまうリスクがあります。障害発生時の住民への影響や負担を可能な限り抑えるために、予備の通信回線を用意しておくなどの対策が欠かせません。また、都市機能を維持するために必要なデータやシステムを分散管理するなど、ICTに頼りすぎない仕組みを考えておくことも必要です。
また、幅広いデータ活用によって生活の利便性が高まる一方で、個人のプライバシーへ配慮した対策も求められます。街中にセンサーやネットワークが張り巡らされることによって、監視されている、知られたくない情報を収集されていると不安を感じる人も少なくないでしょう。住民が安心して暮らせるようにするためにも、プライバシーの確保は必須の課題です。
他にも、スマートシティにかかる莫大なコストをどう捻出するかといった問題の解決や、広く多くの人々に理解・賛同してもらうための工夫をしていくことも今後の課題と言えるでしょう。