現在、私たちの経済活動や日常生活において排出される温室効果ガスは、深刻な気候変動の原因のひとつです。世界各国では、その対策としてあらゆる取り組みが進められています。
脱炭素とは
温室効果ガス排出量の削減に向け、関心が高まっている「脱炭素」について解説をしながら、その定義や必要性をご紹介します。
脱炭素とは何か?
「脱炭素」とは、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にする取り組みを指します。
日本国内では「2030年までに46%の削減(2013年度比)、2050年までに脱炭素社会の実現を目指す」ことを掲げられており、それに向けて政府、自治体、企業があらゆる可能性を模索し、脱炭素への取り組みを始めています。
なぜ脱炭素が必要なのか?
全世界レベルでこの「脱炭素」が求められる背景に、地球温暖化の進行と気候変動があります。
近年では気候変動を原因とみた自然災害が頻発しており、その結果、農作物供給量の不安定化による食糧危機や飢餓問題のリスクが表面化しています。さらに、気候変動による、海面上昇や、都市部での大洪水・豪雨、生態系の破壊、水不足や各インフラ機能の停止なども顕著になっています。
地球温暖化の原因においては、産業活動が活発になると、二酸化炭素・メタンガス・さらにはフロン類などの温室効果ガスが大量に排出されます。そして大気中の濃度が高まり熱の吸収が増え、気温が上昇し、これが地球温暖化につながります。
温室効果ガス別の地球温暖化への影響は、二酸化炭素が76.7%、メタンガスが14.3%、一酸化二窒素が7.9%、オゾン層破壊物質でもあるフロン類(CFCs、HCFCs)は1.1%。
つまり、石油や石炭などの化石燃料から排出される二酸化炭素が、地球温暖化の最大の原因と言えます。
これを受け、世界が一丸となり脱炭素化社会かつ温室効果ガス削減に取り組む必要性があります。
具体的な脱炭素の取り組み
では、2050年までの脱炭素社会への実現に向けて、具体的にはどのような取り組みが進められているのでしょうか。
エネルギーの脱炭素化
脱炭素社会を実現するためには、「再生可能エネルギー」が必要不可欠です。
現在使われている主な化石燃料は有限性資源であり、発電時には多くの二酸化炭素が排出されます。一方で、あらゆる再生可能エネルギーは資源が枯渇せずに再利用が可能であり、生成時の二酸化炭素排出量をかなり抑えられます。
クリーンエネルギーである、再生可能エネルギーのポテンシャルは計り知れないものです。
中には一般実用化することができれば現在のエネルギー問題を全て解決可能といわれているものもあります。
すでに普及するものも含め、以下が現存する再生可能エネルギーです。
・自然エネルギーの中で最も発電量が多い「太陽光発電」
・水車を回転させ発電する「水力発電」
・動植物によって生まれた資源利用の「バイオマス発電」
・風車の回転エネルギーを利用した「風力発電」
・地下マグマのエネルギーを利用する「地熱発電」
・太陽熱を利用した「太陽熱発電」
・波の動きと力を利用する「波力発電」
このように、さまざまなクリーンエネルギーがあります。
2021年度調査で、日本国内の再生可能エネルギーである太陽光・水力・地熱・バイオマス・風力の発電量は年々増加傾向にあり、2014年度比で10.3%も増加しています。
太陽光発電においては、2014年度は1.9%から2021年度は9.3%も増加しています。この背景には家庭で導入しやすいこともあり、他の再生可能エネルギーよりも占める割合は急速に高まっています。また、水力発電が占める割合は7.8%、風力発電が占める割合は0.9%です。
一方、主要先進国の再エネ発電量比率を見ると、日本は16.0%、最も高いカナダと比べると約50%ものの大きな差があります。
発電比率の低さは目立ちますが、太陽光発電の導入量は世界第3位であり積極的な姿勢がうかがえます。
産業と交通の脱炭素化
交通・物流・運輸部門においては、2030年度へむけ二酸化炭素排出量の35%削減(2013度比)を目標としています。
この達成に向けては早急な取組み推進が求められています。次世代自動車であるEV(エレクトリックビークル)の普及促進や交通の円滑化などとともに、公共交通の活用増やモーダルシフト転換も必要です。また、国際航空部門・外航海運部門などでは、国際的な動向を踏まえた視点での取組みが重要となります。
また、当時の菅総理大臣が2021年1月に「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」ことを宣言しています。
各自動車メーカーもEVシフトを表明しており、トヨタ自動車株式会社は、2030年までに自動車のEV・電動化として8兆円を投資、そのうち車載電池の開発などに4兆円をあてることを発表し実行しています。他の自動車メーカーも、国内外の普及へ向けてEVシフトの方針や投資を打ち出しており、EVの普及が今後加速的に進んでいくと見られています。
また、脱炭素化が容易でないといわれている産業部門。日本国内の二酸化炭素直接排出量において約25%を占めており、特に排出量が多いのは鉄鋼業、化学工業、土石製造業、パルプ・紙加工品製造業です。
製造時に要する燃料の燃焼から、排出に加えて、製造前における原料からの排出も削減する必要があります。対策としては、製造業でのあらゆる過程で電力を使う際、二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギー/再生可能エネルギーである太陽光やバイオマスなどの使用などが挙げられます。
それでは、東京製鐵株式会社の鋼材生産プロセスでの脱炭素化を例としてご紹介します。
電炉鋼材を用いて、下記の方法で製造時のCO2排出量を大幅に削減しています。
・柱や大梁を含む構造骨組に用いる鋼材のほとんどを電炉鋼材で製造
・鋼材生産プロセスに用いる電力を、再生可能エネルギー電力で代替
また、建築物使用鋼材の製造・調達から解体・回収に至るまでの資源循環サイクルを構築。
解体時に発生する鉄スクラップを他社と連携し回収、鋼材の製造・調達時の脱炭素プロセスと建設・解体・回収時の資源循環プロセスを組み合わせることで、鋼材の資源循環サイクルを構築します。このような循環サイクルの構築によって、再利用時に生じるCO2 排出量の大幅な削減を目指しています。
脱炭素でもたらされること
脱炭素を目指す上で、深く理解しながらまずはその目的を知る必要があります。
持続可能な社会の実現
国際的な指標であるSDGs(持続可能な開発目標)と脱炭素社会は深く関連しています。
目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」
環境配慮の再生可能エネルギーを拡大させる
クリーンエネルギーの研究や技術促進
目標12「つくる責任、つかう責任」
資源利用の効率向上
クリーン技術拡大で持続可能性を向上させる
リサイクル、再利用により廃棄物を大幅に減少
環境保全の管理徹底で、大気・水・土壌への排出を大幅削減する
目標13の「気候変動に具体的な対策を」
加速する気候変動の緩和、それらに関する教育・啓発・制度を改善する
気候基金を本格始動
このように脱炭素へ向けて、SDGs意識と地球環境保全へのアクションが必要です。
新たな産業や雇用の創出、経済の活性化
また、多くの産業セクターでは有限エネルギーを大量に消費し、日本国内経済は化石燃料に大きく依存しています。
それゆえ化石燃料からの脱却は、多くの産業部門に大きな構造的変革をもたらしながら仕事や労働地域にも影響がおよぶことが予想されます。そのためにも、脱炭素社会への産業や雇用の変動を踏まえて、経済活動や社会的安定を守るための対策が重要となります。このような取り組みは「ジャスト・トランジション=公正な移行」とも呼ばれます。
脱炭素社会を実現するために、地域社会、雇用環境、生活様式を変化させることは、質の高い雇用を生み出し、持続可能な経済・ 社会を繁栄させる大きな機会でもあります。
この脱炭素社会に伴う移行において誰も取り残されないようにするため、ステークホルダーが積極的に協議に参加し、労働者には働きがいのある仕事と安定した収入を確保することを前提としなければいけません。
また経済面においては、ESG(環境・社会・企業統治)投資はいまや世界の機関投資家の主流の投資方法になっています。
各国・各地域の資産運用会社が加盟しているGSIA(世界持続的投資連合)によると、2020年の世界ESG投資額は、2018年度比の15%増の35兆3,000億ドル(およそ4,020兆円)、日本国内では2兆9,000億ドル(約330兆円)となっていて、世界的にESG投資の拡大は続いています。
ESG投資の最大の関心は気候変動対策・脱炭素であり、投資先の判断材料の1つとして、企業がどのくらい温暖化ガス(GHG)を排出しているのか、また対策をし、削減しているのか、その情報開示です。
企業にとっては脱炭素化の取組みは、経営面の安定化に重要なカギとなっています。
日本と世界の脱炭素に向けた取り組み
最後に、脱炭素社会の必要性と実現に向けた問題点をふまえ、日本国内と世界での取り組みについて紹介していきます。
日本の取り組み
2020年当時の菅内閣は、2050年までに国内において「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。
加えて、2021年の米国主催の気候サミットにおいて、「2030年度に、温室効果ガスを46%削減(2013年度比)することを目指し、さらに50%の高みに向けて可能性を見出し、挑戦を続けていく」と表明しました。
では、具体的に国内の中小企業が取り組むカーボンニュートラル実現への事例についてみていきます。
国本工業株式会社
パイプ加工品などの自動車の部品製造や、金型の設計・製作などを手がけている会社である国本工業株式会社。
カーボンニュートラルの実現へ向けて、2021年より製造工場に太陽光発電パネルを設置し発電を開始しており、半年間で280,852kWhの発電をしました。
温室効果ガス排出の抑制効果としては、年間で約114トンのCO2排出量削減を叶えています。さらに、工場の電力使用量の約20%を太陽光発電システムで生成した電力で置き換えることもできています。
また、自社発電できない場面であっても、グリーン電力証書を購入し使用することでカーボンニュートラルの実現を同社は目指しています。
日崎工業株式会社
川崎の臨海工業地帯に本社と工場をおく、板金加工の日崎工業株式会社。
2020年に社屋屋根に太陽光パネルを168枚も設置し、年間で約40,000kwhも自社発電し、電気代を年間で約160万円削減しています。
これによって、CO2排出量を年間約14トン抑制することも可能にしています。
また、2019年には自社ガソリン車2台をHV(ハイブリッド車)、EV(電気自動車)に転換導入しており、CO2排出量を年間13トンから3.8トン(約70%減)と大幅に抑えています。
年間CO2の総排出量の変化としては、ピーク時(平成26年)の 172トンから令和3年度には 73トンと58%もの削減を実現しています。
世界の取り組み
2021年にイギリス・グラスゴーで26回目となるCOP26が開催され、脱炭素社会に向けた議論や各国の取り組みの表明がされました。
COP26において他国が提案した具体策例としては下記の様なものがあります。
EU
2019年にグリーン・ディールを発表しているEUは、COVID−19の復興予算となる1.8兆ユーロのうち30%以上を気候変動に充てました。
気候変動対策と経済復興を同時に推進する方針を固め、温室効果ガス排出量削減目標の引き上げに加え、2050年までのEU域内ゼロ炭素化実現を法制化する具体策を示しました。
2030年時点での温室効果ガス削減目標を、55%へと引き上げることが表明し、また2050年の目標達成への具体的な策として下記が挙げられています。
・エネルギー効率
EU加盟国全体で、2020年比でのエネルギー消費量で、2030年にはエネルギー最終消費量11.7%以上を削減すること。
・代替燃料のインフラ
インフラ整備において、欧州全域での代替燃料の充電・給油ステーションの普及を確保する。これによって運輸部門は、カーボンフットプリントを大幅削減することが可能になる。
・グリーンな欧州海運領域イニシアチブ
この主な目標は、海上交通の円滑な運用を確保しながら再生可能かつ低炭素エネルギーの需要と継続的な使用を促進すること。そして海上輸送部門からの温室効果ガスの排出量を削減することができる。
EU諸国はこれらの具体策と予算をもって、EU域内の脱炭素化を目指しています。
そして、各国自治体の具体的な脱炭素化取り組みとしては、
デンマーク
デンマーク・コペンハーゲンの南部では、100%再生可能エネルギーを使用した村「UN17village」がつくられました。ここでは雨水や建設資材もリサイクルするという徹底した100%サスティナブルな村を目指しています。
具体的には、およそ35000平方メートルの敷地に、400もの新規住宅を建築し、約800人が暮らせる村を作り出し、建材はすべて建設廃棄物をリサイクル処理したものが使用されているということです。
各住宅の屋上には、太陽光発電を設置することですべての電力を自家発電でまかない、さらには雨水を集め、年間150万リットルを再利用するなど、100%再生可能エネルギーを使用し生活ができるという環境。
日常ででる廃棄物も、すべて資源として再利用されるためゴミそのものが存在せず、またあらゆる人が住居可能なダイバーシティに富んだ村になるということです。
すべてが循環して成立するという、地球環境にも人類にとっても理想郷のような場所になることでしょう。
スウェーデン
SDGs達成度の高いスウェーデンの主な発電方法は、二酸化炭素を排出しない水力と原子力が利用されています。
中でも水力発電は全体の43%を占めており、次に多いのが原子力発電です。
風力発電においては急成長を続けており、国内には4,300基の風力タービンが稼働し、約16%の電力を担っています。そして国内エネルギー供給は70%以上も自給できているということです。
また過去には、EU全体で掲げられた温室効果ガス削減の目標が2020年までに17%減でしたが、スウェーデンはその予定よりも早い2016年時点で、約25%減を達成しました。
そしてスウェーデンは、2050年の目標だった脱炭素化の実現も5年早めた2045年を目標設定にしています。スウェーデンは他国と比較しても再生エネルギーの分野や脱炭素化において先駆けているといえるでしょう。